ジョセフ核軍縮担当米国特使の発言に抗議し、発言の撤回を要求する!
ジョセフ核軍縮担当米国特使の発言に抗議し、発言の撤回を要求する!
2007年7月5日
内閣総理大臣 安倍 晋三 殿
核兵器廃絶をめざすヒロシマの会
共同代表
岡本三夫 河合護郎 森瀧春子
「原爆の使用が終戦をもたらし、連合国側の数十万単位の人命だけでなく、文字通り何百万人もの日本人の命を救ったという点では、ほとんどの歴史家の見解は一致する」。米政府のロバート・ジョセフ核不拡散問題担当特使(前国務次官)が4日、ワシントンでの記者会見で語った。「ほとんどの歴史家の見解は一致する」とはとんでもない虚言である。スタンフォード大学歴史学教授バートン・バーンスタイン博士をはじめ、原爆投下問題に関する内外の専門家は的はずれの暴論に驚いていよう。
久間防衛大臣の「原爆投下はしかたない」発言につづく暴言の連鎖である。1945年8月の段階で、日本はすでに東京を初めとする60以上の大都市が米国の戦略爆撃で焼き尽くされ、無防備の市民に襲いかかる米軍機を迎撃できる能力もなく、軍部内強硬派の抵抗はあったものの、降伏とポツダム宣言受諾は時間の問題であり、原爆投下の軍事的必要はまったくなかった。
以上のような暴言や「原爆投下で戦争終結が早まった」という俗説には何の根拠もなく、むしろ米国は原爆投下までは日本の降伏を許さなかったために戦争が長引いたというのが歴史の真実である。日本が降伏し、戦争が終わってしまっては、20億ドルという巨費を投じて開発した原爆の実戦使用というチャンスを永久に失うことになる。政府首脳は何よりもそれを恐れたのだった。G・アルペロビッツ教授のように「原爆は広島・長崎に落とされたが、ソ連へのメッセージだった」とする歴史的分析もある。
また、早くも45年9月、米国のドワイト・マクドナルドというジャーナリストは『ポリティックス』という雑誌に原爆投下が国際法違反の国家テロだと決め付け、ナチス・ドイツによるユダヤ人抹殺と何ら変わらない戦争犯罪だとして、「原爆投下は広島・長崎という2つの都市を実験室に、両市の市民をモルモットに見立てた前代未聞の凶悪な科学的実験だった」と糾弾している。
さらに、D・アイゼンハワー将軍やD・マッカーサー将軍など軍首脳の原爆投下を疑問視した発言も残っている。前者は「日本はすでに惨敗しており原爆は不必要だ」と言っており、後者は「米軍の上陸を待たずに日本は9月かそれ以前に降伏するだろう」と言っている。ドイツの降伏(45年5月)以後、日本がソ連を介して降伏の条件を米国と交渉中だったことも明らかになっている。原爆を使用しなければ膨大な数の米将兵と日本国民が犠牲になったという根拠はまったくない。
日米両政府やその他の国々が北朝鮮の核兵器保有を憂慮しているのは当然だが、ジョゼフ特使のような原爆善玉論こそ核拡散の元凶であり、核兵器は凶悪な犯罪兵器だという認識を世界市民が共有しない限り今後も核拡散の流れを防止することはできないだろう。1997年に行われた米国での世論調査でも、核兵器がない方が国は安全という意見は84%に、核兵器廃絶を望む米市民は87%に達した(世論調査専門のLake Sosin Snell & Associates社の調査)。
「9・11」以後、米世論は「反テロ戦争に核兵器は有効」というように揺れているようだが、原爆被爆国である日本が反核の姿勢を変えることは許されない。数十万人の被爆者はいまも被爆の後遺症で苦しんでいる。日本政府はジョゼフ特使の暴言を撤回するよう米政府に求め、米政府と協力することによって核兵器廃絶へのロードマップを国際社会に示してもらいたい。