広島市平和行政の変質を問う声明

広島市平和行政の変質を問う声明


 2023年6月29日、広島市長は在日米国大使館を訪れ、広島平和記念公園(原
爆公園)とパールハーバー国立記念公園(真珠湾記念公園)の姉妹公園協定を締結し
た。原爆公園は、米軍の原爆投下によって無残に無差別大量虐殺された十数万の人々
及び放射能後障害によって遅れた死をもたらされた人々を悼む慰霊の場である。一
方、真珠湾記念公園は、日本軍の奇襲攻撃で始まった日米戦争の戦跡記念公園であ
り、戦果として沖縄からの学童の疎開船・対馬丸を含む日本艦船撃沈を展示する戦勝
記念館である。広島市は、歴史的位置付けが全く異なる両公園の姉妹公園協定の意義
を次のように述べている。


 『本市としても、戦争の始まりと終焉の地に関係する両公園の提携は、過去の悲し
みを耐えて憎しみを乗り越え、未来志向で平和と和解の架け橋の役割を果たしていく
ことになると考えています。』『加えて、「G7首脳広島ビジョン」の実現に向けた第一
歩としてその機運の醸成に資することにつながることから協定締結の申出を受け入れ
ることとしました。』


 これでは、戦争の始まりが真珠湾奇襲攻撃で、原爆投下は戦争の終結を早めたとい
う米国側の主張を認めたことにならないだろうか。私たちには容認できない考え方で
あり、歴史の真実とも違うのではないだろうか。


 明らかに国際人道法に違反する無差別虐殺の原爆投下に対する責任ある歴史的検証
と犠牲者への謝罪があってこそ和解への道は開けるはずだ。


 私たちは無数の原爆犠牲者に対して、人類の未来に対して、あくまで米国の原爆投
下の責任を問い続ける義務がある。また、同時に、日本がかつて植民地支配し、アジ
ア諸国を侵略したことに関し、アジア・太平洋地域の人々に苦難を与え、未だ清算で
きていない問題があることを認識する必要がある。誤った歴史的認識への反省なしに
未来に向かうことは不可能だから。


 ましてやG7 広島ビジョンは核兵器を、核抑止力を有用だと改めて認めたものであ
ると私たちは考えるが、広島市は広島ビジョンが理想的な核兵器廃絶への方途と位置
付けて、両公園の姉妹協定のみならず、NPT 再検討会議においても「機運の醸成に資
する」ものと認識していることは容認できない。これまでの広島の核兵器絶対否定の
土台を崩していいのか。長年かかって核兵器禁止条約を実現した被爆者をはじめとす
る世界市民を裏切っていいのか。


 広島市は、平和教育用「ひろしま平和ノート」にある貴重な教材である「はだしの
ゲン」「第五福竜丸」を4月に削除してしまった。その経緯や理由は不明なところが多
い。なぜ、核開発のための核実験、原爆被害の実態をありのままに伝えることに背を
向けるのか。これも何らかの力に対する追随としか思えない。G7を控えた「環境」
作りだったのか。国内のみならず世界中から不信を向けられてしまっていることを認識すべきだ。
G7広島サミットを控えた2023年3月29日、広島市のホームページから放射能兵器劣化ウラン弾に関する記述が削除された。ウクライナ戦争にあたって、イギリスがウクライナ軍事支援として劣化ウラン弾の大量供与を表明した時期に当たる。


 ホームページのFAQ欄には「劣化ウラン弾が目標物に当たると爆発し、霧のようになった劣化ウランの細かい粒子が空中に飛散します。これを吸い込むと、科学的毒性により腎臓などを損傷するとともに癌などの放射線障害を引き起こします」と簡略に核心を記していた。
劣化ウラン被害記述をウクライナ戦争に使用されるという危機に当たって削除したということは、NATOと一体となってウクライナを支援する日本政府からの指示あるいは広島市側の忖度への疑念が拭えない。


 今春以降次々と広島市の平和行政の変質を問われる施策が松井市政から発せられてきている。G7サミットの広島開催が動機となって広島がヒロシマでなくなってきていることに危機感を覚える。
広島市という自治体は78年前の原爆投下によって無辜の民を瞬時に消され、子どもたちから親を、親から子どもたちを奪われた非人間的悲惨をこうむった地であることを自覚してきたはずだ。広島市には、いずこの国の権力に対しても核の非人道性を訴える義務と権利がある。核大国の、核抑止に頼る国家の権力に媚びず、核絶対否定の信念を矜恃し、市民を、人類の未来を護っていかなくてはならないのではないか。


 被爆78年の8月6日を前にして、広島市の「平和行政」に対して上記について再考を求めるものである。


2023年7月4日


核兵器廃絶をめざすヒロシマの会(HANWA)
代表 足 立 修 一

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